誰が着物を殺すのか?

栗田です。着物のお手入れが仕事です。屋号は「なをし屋」です。
着物のお手入れが生業ですから、理屈だけで言えば、着物を着てくれる人が多ければ多いほど儲かります(笑)

まぁ、実際にはそんな単純な話ではありませんが・・・

そして、今日はあいにくの天気ですが、成人式(じゃない地域もありますが)ですね。おそらく、我が国で一日に着物を着る人がもっとも多い日です。新成人の皆さん、おめでとうございます。

そんなハレの日に、にわかに信じ難くそして絶対に許し難いニュースが飛び込んできました。

 

朝にこの事件をTwitterで知った時、心から怒りと悲しみの感情が湧いてきました。

ボクは着物のお手入れを生業にしてますので、「誰か」の思い入れのある着物をお預かりさせていただく仕事なんですが、今までにたくさんの着物の染み抜きやお手入れをしたことで、ご依頼いただいた方からの想いのこもった感謝のお手紙やメールなどを多く頂戴しております。

着物は、譲り受けたり買った物でも、借りて着た物でも、やはり思い入れの深い衣服だと思うのです。

ですので、ご本人やご家族のお気持ちを想像すると、何も出来ない無力な自分ですが、とてもいたたまれない気持ちになります。

そんな中、近隣の呉服店さんなどが迅速に被害者の救済を申し出て行動されたことは、例え救われるのがごく一部の方だとしても、胸が熱くなりました。

あくまでボク個人の意見としては、この詐欺を働いて逃げた経営者は万死に値すると思います。

それぐらい許されざることをしたんです。

 

さて、ちょっと話題を変えます。

もし着物とは何か?と問うた場合、答える人によって返ってくる答えはそれぞれだと思います。

我が国の伝統であり守るべきものだと答える人もいれば、行事や特別な時に着る物と答える人もいるでしょう。

普段から着ている衣服だと答える人もいるでしょうし、日常的に何かの衣裳や仕事着として使っているという方もいらっしゃるでしょうね。

着物は、おそらく文明開化の前までは、庶民からとても偉い人まで全ての日本国民の日常の衣類であったのですが、今やほぼ全てが洋服に取って代わられ、着物を着ている人は、今や珍しい存在となってしまいました(細かいツッコミはご勘弁くださいね)

これについての是非は論ずる気はありません。現実的に考えて、今から洋服よりも着物を着る人の割合を多くするのは不可能です。

さらにぶっちゃけて言ってしまうと、ボクも毎日ではないけれど着物を着ますが、正直、洋服よりも大変なことは多いです。

まず、汚してしまうと後が大変なこと。これは、ボクの仕事に繋がることなので、ちょっと言いにくい部分でもありますが(笑)

その他にも、着ている時に動きが制限されることなどもあります。

この辺りは日常的に着物を着ている方からすれば「そんなことはない」という反論があるんでしょうけど、そこはかなり着慣れた方の意見なので、ここはグッと堪えてください(笑)

そんな正直言って面倒なことも多い着物ですが、着物をファッションとして見直す動きもあり、老若男女を問わず、新たな価値観で着物を楽しんでいる方が増えつつあるのも確かです。

そんな着物の現状ですが「着物はこうあるべき!」論の方々の中には、思い思いのお洒落をした着姿の方々に対して「そんな着物の着方は認められない!伝統を壊すな!」というような感情を持つ方もいらっしゃるようです。

でも、はっきり言って、アナタの価値観なんぞ「知らんがな(´・ω・`)」なんですけどね。

「不寛容」が着物を殺す

着物がこうあるべき論の方の言う伝統や価値観って、実は、戦後ぐらいからの呉服業界が着物を売るために作った価値観みたいです(これも細かいツッコミはご勘弁を)

それ以前は、ハレの日の着物は別にすると、普段着としての着物は一般的であり、素材も絹だけではなく綿や麻なども多くありました。

何かの特別な時や場においては、やはり着物はきちんとした着方をするべきなんじゃないかと思います。

けれど、普段使いとしての着物であれば、どんな着方やお洒落をしようと、他人である人がとやかく言う必要も権利もないと思うんですよ。

誰かがが自分の好きなように着物を着て、アナタに何か迷惑や損害を与えたんですか?

そんなことはありえないですよね。

そして、その誰かを批判したり揶揄したりする権利はないはずです。

もしアナタが思う着物の伝統や格式を守りたいと思うのであれば、それはアナタ自身が守れば良いことであって、決して他人に強要して良いものではないはずです。

着物は衣類であり、ファッションです。

であれば、洋服と同じようにTシャツとジーパンからドレスのように、その場に応じて着分ける物のはずです。

それを一括りにして伝統だとか格式だとか余計なことを言うのはもう止めにしませんか?

寛容さが着物を救う(かもしれない)

ネットが発達した現代、俗に言う炎上などに代表されるように、世の中の空気が不寛容になっている気がします。

思い思いの着姿で着物を楽しんでいる人達への批判や揶揄なども、その不寛容だと思わざるを得ません。

自分たちの価値観に固執して、その価値観にそぐわない人たちを排除するのではなく、もっと寛容な気持ちで新たなユーザーを快く迎え入れることが、もしかすると、滅びへの道を辿っている着物を救うかもしれないのです。

プロフィール

栗田 裕史
栗田 裕史
1969年京都生まれ京都育ち。染色補正という裏方の業種の職人でありながら、BtoBからBtoCへ挑戦。全て自力でサイトを作り「なをし屋」という屋号で、表舞台へと出る。変色したり黄ばんだりしたシミも直してしまう染み抜き屋です。