染み抜き屋が教える、賢いアンティーク着物の選び方

アンティーク着物という物があります。アンティークを和訳すると古美術品・骨董品ですので、まぁ、骨董的位置付けの着物、といったところでしょうか?

本当の意味での「アンティーク」は戦前の物とかを指すらしいのですが、戦前まで行かなくても50年くらい前までの着物は、今はアンティーク着物として定義されているようです。

昭和40年代あたり以降の現代的なデザインの中古の着物の場合、リサイクル着物と定義されているようですが、アンティーク着物も大きな括りでは、リサイクル(中古)着物となります。

そんなアンティーク(リサイクル)着物ですが、小売をするお店も小さいお店を含めればかなりたくさんありますし、神社なんかでやってる蚤の市のようなイベントでは、山積みになった中古の着物が売られているのを良く見かけます。

まずは着物入門に(新品に比べて)手軽に買えるということや、現代的ではないデザインが気に入って愛用という方など、アンティーク着物を買ったことがある、もしくはこれから買ってみようと思っている方は結構いらっしゃると思います。

ボクは着物のお手入れや染み抜きをする職人なのですが、そんな染み抜き屋が考える、アンティーク着物の賢い選び方というのをつらつらと書き連ねてみようと思います。

古い着物に付き物で、最もやっかいなもの・・・

何だと思いますか? 実は「臭い(におい)」なんです。

リサイクル着物のうち、特にアンティークと呼ばれるぐらい長い年月のあいだ保管されていた着物は、保管場所の環境にもよりますが、古い物独特の臭いやカビ臭のような臭いをまとっていることが少なくありません。

店頭で小売りされている商品は、丸洗い(クリーニング)をしてから店頭に並べていることも多いようで、アンティーク着物でもそれほどきつく臭わない場合もありますが、結構臭う物もあるようです。

ましてや、何のお手入れもせずに売っているフリマなどで買ったアンティーク着物は、かなり辛くなる臭いがしていることもあります。

この臭いは、クリーニングで軽減出来る場合もあるんですが、臭いを一番取ることが出来るのは、やはり水を使って洗うことなんですね。

アンティーク着物は主に絹で作られているのですが、絹の着物をそのままの状態で水洗いすると、激しく縮んだり染色が滲み出してあちこちに色移りが広がったりしますので、着ることを前提としたお手入れとしてはオススメ出来ません(愛好家の中には、水で洗ってしまう猛者もいらっしゃるようですが)

着物を水洗いする場合、基本的にはお仕立てを全て解いて水洗いする必要があります。用語で言うと、「洗い張り」という加工になります。

お仕立てを解くと、着るには当然お仕立て直しが必要になりますので、その分のお仕立て代が必要になりますから、そのお着物に想い入れが無ければ、せっかく手に入れたお着物も着ることが出来ずにそのままお蔵入りとなることになるかもしれません。

また、アンティーク着物を洗い張りする場合においては、常に「生地の劣化の可能性」というリスクが伴います。

以前あったのですが、お客様が持ち込まれたアンティークの着物をご依頼により洗い張りしたのですが、洗い張りする前の解きハヌイ(仕立てを全て解いてバラバラになった生地を繋ぎ合わせて反物の状態にすること)をして湯のし(機械で蒸気を当てながら生地を伸ばす工程)をしただけで、生地が縦にパーン!!っと裂けてしまったことがありました(事前にリスクはご説明していたので、お客様にはご納得いただけました)

乾いた状態で引っ張っただけで裂ける可能性がある物を、水でゴシゴシ洗ったら・・・。

深く考えるまでもなく、高いリスクが伴いますよね。

デザインが気に入って購入しようとしたアンティーク着物があったとしても、着られないような臭いがあった場合、その臭いを着られる程度に軽減出来ないかもしれないということは頭に入れておいていただいて損はないと思います。

(補足ですが、当店ではクリーニングと同時に出来る加工で「遠赤外線の除菌・脱臭」という加工があり、クリーニングと併用すると、古い臭いやカビ臭をかなり軽減出来る場合がありますので、もし臭いでお悩みのアンティーク着物があれば、一度ご相談ください)

直るシミ・直らないシミ

アンティーク着物は要は中古の着物ですから、保管状態にもよりますが、シミがある場合も少なくありません。

シミがあったとしても、着れば隠せる部分であればそれほど気にしなくても良いのですが、着た時に目立つ部分にシミがある場合、そのシミが直せるシミなのかどうかは、ある程度判断出来た方が良いと思います。

染み抜き屋としてのボクの経験からの話なので、これといった基準やマニュアルがあるわけではないのですが、シミの直りやすさ・直りにくさには、ある程度共通した傾向があります。

まず、

「シミは大きくなるほど修正した跡が分かりやすい」

という傾向があります。

変色したシミを抜く場合、着物の地の色が抜けてしまう場合が多く、色が抜けると部分的に色をかけて元に戻すのですが、色が抜ける範囲が大きくなるほど、どんなに頑張って修正しても跡が見えやすくなります。

ですので、大きく変色したシミよりは、小さく変色したシミの方が、より直りやすいと言えます。

「紺・紫・濃い緑などの色の変色は直りにくい」

上記の色だけではありませんが、基本的に青をベースとした色合いは、変色の修正が難しい傾向があります(ごく薄い場合はその限りではありません)。

なので、上記のような色合いのアンティーク着物で、着ても隠れない部分に目立つ変色したシミがある場合、シミが直せないという可能性を考えての着物選びを心がけた方が良いと思います。

あと、アンティーク着物にまつわる問題として「サイズの問題」がありますが、この辺りはプロの和裁士さんなどが書いておられる記事なんかもありますので、ごく簡単に説明します。

アンティーク着物は基本的にサイズが小さい物がほとんどです。割り切ってそのまま着ておられる方も多いのですが、もし羽織ってみて全く寸法が合わない場合は、とりあえず、裄(ゆき)【着物の肩巾と袖巾の合計】と、身丈(みたけ)【着物の丈の長さ】をチェックしてください。

着物の寸法を伸ばす場合、縫い込み部分にどれだけ生地が隠れているかによって出せる長さが決まってくるのですが、アンティーク着物の裄と身丈は、縫い込み部分の生地の余裕があまり無いものが多く、寸法直しをしてもあまり伸ばせないと考えておいた方が良いです。

まだ書きたいことや思い出したことがあれば、第二弾の記事を書こうと思います。

思った以上の長文となってしまいましたが、アンティーク・リサイクル着物を愛する皆さんの参考になれば幸いです。

プロフィール

栗田 裕史
栗田 裕史
1969年京都生まれ京都育ち。染色補正という裏方の業種の職人でありながら、BtoBからBtoCへ挑戦。全て自力でサイトを作り表舞台へと出る。他店で直せない品物の依頼も多く、一年を超える期間のお預かりもある、変色したり黄ばんだりしたシミも直してしまう染み抜き屋です。「物」ではなくご依頼者様の「想い」を救いたいといつも思っています。【国家認定・一級染色補正技能士】【国家認定・京友禅(仕上げ部門)伝統工芸士】【クリーニング師】
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