染み抜き以外の着物の修復技法|染み抜き屋が教える着物お手入れの話

麻呂

一級染色補正技能士・伝統工芸士の、栗田裕史です。

染み抜き屋です。屋号は「なをし屋」です。

染み抜き屋が教える着物お手入れの話、第二回の記事となりました。

第一回は、丸洗いと洗い張りって、何が違うの? というお話をさせていただきました。

恐る恐る投稿しましたが、ご好評をいただいたようで、一時的ではありますが、ブログへのアクセスがグンッと伸びました。

さて、ボクは染み抜き屋ですので、シミなどで着られなくなったお着物は、基本的に染み抜きで直します。

それでお金をいただき、お客さんに喜んでいただくのがボクの生業です。

ですが、魔法使いではありませんので、やはり染み抜きではどうしても直せない物もあります。

例えば、シミが濃すぎて、染み抜きを行っても生地の強度の兼ね合いで、シミが残ってしまう場合。

例えば、すでにシミ部分の生地が弱っていて、染み抜き作業自体が難しい場合。

例えば、綺麗な青色の着物に変色シミが多数あって、染み抜きと色修正をしても、元の綺麗な青色に直らない場合。

そんな風に染み抜きで直せないシミというのに時々出会います。

そんな時、着物を製作する際の技法を応用して、染み抜き屋が直せない物をまた着られる状態にする技法が、あまり知られていない物も含めて数々あります。

今回は、そんなちょっとマニアックな着物の修復技法をご紹介していきたいと思います。

「染め替え」という技法について。

着物は、作る際に全体を染料で染めているのですが(糸を染めてから生地を織っている先染めの物は除きます)、その全体染めの技法は、古い着物の色を変えたり、色褪せてしまった着物を染め直して蘇らせたり、染み抜きで落とせないシミを濃い色で染めることによって隠したり、様々な加工目的に応じて使われます。

染め替えの方法は、大きく分けて三つあります。(実際はもっと細かく染めの方法は分かれているのですが、それを全て書くと膨大な文章になってしまうため、今回は主な分類にとどめています。)

一つ目は、引き染め

引き染めは、名が表すように、染料を含んだ刷毛を生地の上に引いて染めます。

柄部分にまで染める必要がある場合は、防染糊または特殊な蝋(ろう)で柄を伏せて染めます。

染めた後は高温の蒸気で蒸して染料を発色・定着させて、水洗いして余分な染料を流して仕上げます。

ぼかし染めなどの複雑な染めは、全てこの引き染めで染められています。

染め直し・染め替えにおいては、シミを隠す力はちょっと弱いので、今の色を濃くしたり褪せた色を修正する場合に行われることが多いです。

二つ目は、しごき染め

しごき染めは、染料を混ぜた糊を生地の上にヘラで端から端まで塗って、それを高温の蒸気で蒸して染料を発色・定着させる染めの技法です。蒸した後は、生地を水に浸けて糊を柔らかくしてから洗い落として仕上げます。

染め直し・染め替えの工程においては、柄に染料が入るのを防ぐために、防染糊もしくは特殊なフィルムで柄部分を伏せて染めます。

このしごき染めは、生地の表面を染める技法なのですが、シミを隠す力が引き染めよりも強いようです。

ですので、シミが濃すぎて染み抜きが難しい場合やあまりにもシミの数が多くて染み抜きが困難な場合などは、シミを隠す目的でしごき染めで地色を濃く染める方法を良く用います。

三つ目は、浸染

この染めの読み方、ボクは修業に入った時から皆が「つけぞめ」と読んでいたので、ボクもつけぞめが正式名称かと思っていたのですが、そうでもないようで、ネットで見ると、「しんせん」とか「ひたしそめ」とか色々で、どれが正解かボクには分かりませんw(正式名称を知っている方がいらっしゃいましたら、こっそりDMなどで教えてくださいw)また、「たきぞめ(炊き染め?)」という呼び方も結構耳にします。

この浸染は、生地をドボンと熱い染料液に浸けて染めます(詳しい方法はググってくださいw)

柄がなく全体を一色で均一に染める色無地は、この方法で染められることが多いです。

色無地は、その名の通り「無地」つまりは柄がない(織りの地紋は別)ので、色を抜いて違う色に染め替えることが容易という特徴があります。

色無地をお持ちでたくさんシミがあったりした場合は、染み抜きよりも染め替える方が綺麗になる場合が多いです。

色無地を今の年齢に合わせて色を変えたいとか、譲り受けた色無地を自分好みの色に変えたいというご要望での染め替えのご依頼も結構あります。

この染め替えにはセットで「漂白・色抜き」という加工方法も使われることがあります。

漂白は、生地のシミや黄ばみを抜くために、色抜きは、生地の元の染め色を抜いて違う色や元の色に染め直すための加工です。

この漂白や色抜きは地の色を染め替えるための加工ですので、柄がある着物は、柄の色が抜けないように「柄伏せ」という加工で、漂白や色抜きの液が柄にかからないように前もってロウや糊などで伏せておきます。染めだけの場合も、同様に柄を伏せます。

色無地(柄のない着物)であれば、柄伏せはせずに色抜きを行って、好きな色目に染め変えることが出来ます。

ただ、漂白も色抜きも生地に多少の負担はかかりますので、生地が劣化している場合はリスクが大きいので、出来ない場合もあります。

「金彩加工」という技法について。

金彩加工は、着物の柄を見るとよくされている加工なんですが、金や銀の粉や箔を生地の上に乗せる加工です。

この金彩加工、元の金彩加工が黒ずんだり剥がれたりしているのを戻すことはもちろん、シミなどを隠すために新たに増やしたりもします。

ただ、元々金彩加工のない着物に新たに金彩加工を施すと、柄のバランスが崩れて残念な着物になってしまう可能性もあるので、基本的には元から金彩加工が施してある着物への加工となります。

お振袖やお子様用の祝い着は元から金彩加工を施してあることが多く、またお祝いごとで着ることが多い着物なので、元に比べてきらびやかになってもあまり違和感が出ないので、これらの着物には金彩加工を加えることはよくあります。

また、帯の金糸・銀糸の箔の剥がれや黒ずみを隠すために用いることもあります。ただ、金糸・銀糸と金彩加工は違う物なので、色合いは近い物に出来ても、ツヤなどで違いが分かってしまうこともありますので、安易にはオススメしないようにしています。

「柄足し」という技法について。

個人的には、柄足しが一番すごい技術だと思っています。

着物の柄を描く技法で最も多いものに、友禅という技法があります。

細かいことは書ききれないのですが、ざっくり言うと、染料で生地の上に柄の絵を描く技法です。

そんな染料で描いた柄と見分けがつかないぐらいそっくりに顔料で新たに柄を足してしまう技法、それが柄足しです。

柄足しを用いる場合には、様々なパターンがあります。

例えば、抜けないシミを隠すために。穴のあいた生地をかけつぎ(生地の穴や破れを塞ぐ技法)した上に描いて跡を消すために。寸法を伸ばしたら柄が途中で切れてしまっているので、柄を延長して違和感なく繋げるために・・・

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これ、実はどこかの染み抜き屋さんでシミを隠すために柄を足したようなんですが、あまりにも下手くそな柄足しで、色とか全然合ってないし、違和感がありまくりだったんですね。

そこで、当店で信頼出来る柄足し屋さんに修正をお願いいたしました。

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どうです?周囲の柄と全く違和感が無いでしょ?

着物を蘇らせるための技法は他にもあるんですが、主なものは以上のような感じになります。

このように、腕の良い職人さんによる技法は、染み抜きで直せない物も蘇らせてしまう可能性があるということを憶えておいてくださいね。

プロフィール

栗田 裕史
栗田 裕史
1969年京都生まれ京都育ち。染色補正という裏方の業種の職人でありながら、BtoBからBtoCへ挑戦。全て自力でサイトを作り「なをし屋」という屋号で、表舞台へと出る。他店で直せない品物の依頼も多く、一年を超える期間のお預かりもある、変色したり黄ばんだりしたシミも直してしまう染み抜き屋です。「物」ではなくご依頼者様の「想い」を救いたいといつも思っています。【国家認定・一級染色補正技能士】【国家認定・京友禅(仕上げ部門)伝統工芸士】
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